YAPC::Japan 運営ブログ

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「YAPC::Okinawa 2018 ONNASON」を運営した二人に聞く、沖縄の技術コミュニティとYAPCとのつながり(後編)

2018年3月に沖縄・恩納村で開催された「YAPC::Okinawa 2018 ONNASON」(以下、YAPC::Okinawa)で、当時学生として運営に携わった八雲アナグラ(@AnaTofuZ)さんとcodehex(@codehex)さんに、YAPC運営の思い出や沖縄県内の技術コミュニティの活動、今後のYAPCについて思うことなどについて座談会形式で伺いました。聞き手はkobaken(@kfly8)です。前編はこちらです。

当時の沖縄には「やりやすい環境」があった

――感覚的には、学生同士で勉強会を開くのはイメージしやすいと思うのですが、社会人もいるコミュニティを開催・運営しながら盛り上げていくという、結構ハードルが高いと思われることに、なぜチャレンジしたんでしょう?

アナグラ 割と学内と学外であんまりその壁がなかったんですよね。全部同じ感覚でやってたので。あの時の沖縄はやりやすい環境だったんじゃないかと思います。

codehex 他のメンバーが割とプロフェッショナルだから、学生としてはWebアプリの開発なども含めてフィードバックをもらえるのも大きかったですよね。Yomitan.pmのオーガナイザーだったmasakyst(@masakyst)さんとか、実は“つよつよエンジニア”だから。

――社会人とも自然に交流しているという感じだったんですね。

アナグラ 普通に「強い」エンジニアたちがその辺で飲んでいるのが沖縄の良いところという感じがしますね。初心者向けだけじゃなくて、「全員いる」。

codehex カバーしている技術領域の幅が広いですね、確かに。「入門から応用まで」みたいな感じで。

今は僕とアナグラくんがOkinawa.pmの顔みたいになっているのかもしれないんですが、Yomitan.pmだった頃はさっき話に出たmasakystさんという方が主催していたんです。東京から移住してきた方で、場数を踏んでいて、だいたい何でも話ができる社会人の方だったんですね。他に2~3人いて、メインでは5~6人でOkinawa.pmを運営していました。

沖縄県外とのつながりが生まれて育っていった

――今の生活に影響を与えているような、印象に残っている出来事があれば、教えていただいてもいいですか?

アナグラ あんまり覚えてない……(笑)。覚えてないというか、Okinawa.pmが原体験になっていて「そこで育ったので……」っていう感じで、何とも言えないですね。

codehex papixさんが沖縄に来始めたのはいつでしたっけ? 全然覚えていないんですが、不思議に思っていて……。それまでずっと沖縄の人たちだけが集まっていたのに、急に県外から人が来始めるきっかけがあって、そのタイミングから結構盛り上がったんじゃないかと思います。僕はそういうことがきっかけで東京の会社に就職することもできたんですよね。

アナグラ 僕が初めて行ったPerl入学式 in沖縄(2016年6月)に、papixさんが来たんじゃなかったかな。

perl-entrance.blog.jp

codehex Perl入学式が最初だっけ?

アナグラ  この時にはもうcodehexさんとpapixさんは知り合いになっているから、この前にどこかで話してたんですかね。

codehex papixさんが確か1回、沖縄に来たことがあったんですよね、Yomitan.pmか何かに……。マジで覚えてない!

アナグラ これだ、この時じゃないかな。

papix.hatenablog.jp

codehex よく見つけられるな……。本当だ、「LT始まった!! #yomitanpm」っていうtweet(現ポスト)の写真に写っているのが僕ですね。

codehex Yomitan.pmはこの頃、「いぶし銀次郎」という居酒屋で開催するスタイルになったんですよ。

アナグラ そう、我々の聖地みたいな場所です。大学に近いんです。

codehex その聖地にプロジェクターを持っていって、広めの宴会席を確保して、壁にスライドを映すスタイルでやっていました。そうそう、確かYAPC::AsiaにYomitan.pm全員で行ったんですよ。

okinawa.pm.org

codehex そこで何かしらの交流が生まれて、もしかしたら誰かが「じゃあ行きますよ」っていう話になって、次々と来るようになったのかな……。

アナグラ papixさんが沖縄に来るようになったのはその時からじゃないですかね。僕は、その時はまだコミュニティには参加していませんでした。

――県外から人が来ることで、何か良い影響はありましたか?

codehex 僕の場合は、papixさんが当時在籍していたガイアックスインターンをやるという話があり、papixさんから「おいでよ」と言ってもらったという経緯で、初めて東京の会社で経験を積むことができたというのが、まず1つあります。もう1つは、どうしても沖縄って県外とのつながりがなくて、当時は、県外から人が来ることでつながりを確保できたことは割と大きいなと思っていました。アナグラくんはどうだった?

アナグラ 俺はpapixさんに紹介されて「はてなインターンに行って、終了」みたいな感じだったと思います。僕もcodehexさんと同じですね。

codehex papixさんのことは「すごく面倒見がいい人」だと思ってました。

――今回、もしpapixが聞き手をしていたら、今の話は聞けなかったかもしれませんね。

アナグラ papixさんがいたら「老害ですよ(笑)」とか言い始めると思います。

codehex 徐々に県外とつながりができ始めた2016年に、「ハッカーズチャンプルー2016」(以下、ハッカーズチャンプルー)が開催されて、そこに“Perl界隈の強い人”が来てくれるようになったんです。僕がGoを始めたきっかけは、ハッカーズチャンプルーに来たsongmu(@songmu)さんにGoについて教えてもらったことでした。

アナグラ 前夜祭の時に、バーの隅っこでソファに座りながら話してましたね。

codehex 当時はこっそり授業中にGoを触ってたんですが、全然頭に入らなくて。Goをがっつり触っていたsongmuさんに「Goの良い感じのライブラリないですか?」って聞いて、そこでしっかり教えてくれたから、僕はGoに入門できたんです。沖縄にいない“つよつよエンジニア”と交流する機会はそのあたりから増えたなと思います。

YAPC::Tokyo 2019前夜祭でのcodehexさん
YAPC::Tokyo 2019前夜祭でのcodehexさん

飛行機に乗らなければ聞けない話が、YAPCを開催することで沖縄へやってくる

――YAPC::Asiaでpapixと知り合って、東京ともつながりができて、ハッカーズチャンプルーに県外から人が来て……ということだったんですね。

codehex papixさんの口コミで、ハッカーズチャンプルーのことを「なんか良い」「最高だった」みたいに言ってくれたから、注目され始めたんじゃないですかね。songmuさんも東京に戻ってから「良かった」とお話しされたようで。そういう繰り返しで、皆さんが来てくれるようになったと思っています。

――2人がYAPC::Okinawaを運営している時、codehexさんは学生でリーダーでしたよね。学生時代の僕だったら全然考えられないことで、技術カンファレンスに参加しても「話のレベルがちょっと高すぎる」「知らない人だらけで怖い」なんて思うだろうし、そういうふうに考える学生がいてもおかしくないと思うんです。なぜ「運営しよう」と思ったんでしょう?

アナグラ 「YAPC::Okinawaをやろう」ということになったのは、とーばるゆー(@toubarumba)さんが「YAPC::Hokkaido 2016 SAPPORO」に行ったのがきっかけだったことは知っています。「みんなでやる」っていうことになったからやろうってなった感じです。

codehex やる気はアナグラくんが一番あったと思うけどね。

アナグラ あの時は「なんとかなるんじゃないか」みたいな流れがありましたね。

codehex そうですね。YAPCを開催するとは思わなかったね。

アナグラ papixさんが無茶苦茶熱くて、酔った勢いで言ってきたので、「やるぞ!」となった、みたいな感じです。

――その話だけ聞いていると「乗せられてやった」ように聞こえるところもあるけれど、たぶん「大変なことがいっぱいあったと思うけどそれでもやりきった」と思っていて、そこには自分自身に何か動機がないとできないんじゃないかと。個人的な動機はありましたか?

codehex 当時は技術共有の機会、チャンスがあまりありませんでした。Okinawa.pmを開催する理由としては、フィードバックをもらえるし、自分が知らない話も聞けるのが一番大きかったんですよ。YAPCもその延長だったかなと思っています。

今ではクラウドのプラットフォームなどがそろいつつありますが、当時は全然そんなものはありません。力技でガンガン勝負する時に、そういった情報は沖縄には全然なくて、実践的な話は全部県外にありました。YAPCを開催できれば「その知識が沖縄に集結するじゃん、すげー」、それが一番動機としては大きかった気がします。沖縄では聞けない話を聞きたかったというのは、みんな一致してたんじゃないかな?

アナグラ 普段だったら金を払って飛行機に乗らないと聞けない話が多いですから。YAPCを開催すれば、向こうからやってきますから。

codehex YAPC::Okinawaの会場はOIST(沖縄科学技術大学院大学)だったんですが、那覇空港から遠いんです。車で1時間半ぐらいのところなので、バスを手配して行って。バスで移動するのも最初はみんな不安がっていたんですが、全然苦にならなかったと言ってくださって。OISTが沖縄で一番Wi-Fiが強くて、コンセントもいっぱいあって、エンジニアに優しい環境だったんです。あとは会場が安い!

――あんな美しいところで会場が安いだなんて、すごいですね。

codehex 「めっちゃ良い!」と思ったのに、「むしろ本当にこんな値段でいいんですか?」となりました。

アナグラ 下見で行った瞬間に「ここで」ってなりましたよね。

codehex そうそう、「ここでできたら絶対楽しいじゃん」って盛り上がりました。

――県外からエンジニアが集まって普段聞けない話を聞けることが現実になって、実際にはどのように感じましたか?

アナグラ 運営はトークを聞けないっていう悲しい問題がありまして。僕らがあの時話を聞いてどうこうって感じじゃなかったですね。

codehex 確かに。あんまり聞けなかった。

アナグラ YAPC::Kansai 2017 OSAKA(以下、YAPC::Kansai)にいって会った東京の人が、沖縄に来て、沖縄の知り合いとしゃべってる姿はよかったです。僕はYAPCにかこつけてonishi(@yasuhiro_onishi)さんを沖縄に呼べました。イベントをきっかけに話したい人を連れて来られるのはいいですよね。

codehex 懇親会がメインになりますよね。

アナグラ そうそう。

codehex 最初は全然技術がわからないから、「何言ってるんだろう、すごい」「こんなことできるようになるのか?」みたいにしか聞いていなかったですね。でもそういう驚きがないと、そもそも「これぐらいのレベルに到達するにはどうしたらいいんだろう」とか考えなかったんだろうなという気がします。指標が存在しなかったですから。

YAPCで話しかけた人がすごいエンジニアだった

――エンジニアに「そのレベルになるにはどうすればいいか」と実際に聞いたことはありますか?

codehex 僕は実は、YAPC::Asiaの時にtokuhirom(@tokuhirom)さんに聞きました。「今までどういうことをやってきたんですか?」って聞いたら「コードを書く」「コードを読む」しか返ってこなくて「じゃ頑張ります」って解散した記憶があります。

――それは真実でした?

codehex やっぱり真実じゃないですか。YAPC::Asiaの時に、懇親会の会場でみんなお酒を片手に持って雑談しまくる雰囲気だったんですが、知らない人がいっぱいなので、Okinawa.pmの誰か 1人と一緒に話を聞きに行くみたいな体制でいろいろと話をしました。

「こういう技術ってどうやって身につけたんですか?」って聞くんですが、帰ってくるのは「うーん、わからないけど、とりあえず今の技術力だったから、いろいろやってたら今になった」というような、ふんわりとした回答しか帰ってこないので、「きっとそうなんだろう」って当時は信じてましたね。「今もそうだな」というのが、振り返ってみた感想です。

――アナグラさんはいかがですか?

アナグラ 「話していた人が意外とすごい人だった」という体験が結構ありましたね。最初は、YAPC::Kansaiでまこぴー(@mackee_w)さんのところに連れていかれて、まこぴーさんがあんなにすごい人だと思っていなくて。昔は雑に自分のプログラミングの相談をしていた気がします。

codehex まこぴーさんは「一般人」って感じを出してますよね。めっちゃ強いのに。

アナグラ 僕はどちらかというと、YAPC::Tokyo 2019(以下、 YAPC::Tokyo)の方が記憶が強いのかもしれないですね。登壇してなんだか吹っ切れたのがあの時だったので。

アナグラ YAPC::Tokyoで昔のPerlをビルドする話をした時に、そこそこ盛り上がってよかったとか、この方向でよかったんだなと思えるようになりました。あの時ははてなインターンの影響でちょっと病んでいたので……。

speakerdeck.com

codehex 今となってはいい思い出みたいな感じですか?

アナグラ 定期的にネタになってる気がしますね。現はてな社員なのに。

――YAPC::Tokyoの時、アナグラさんは全部コンプリートしていた気がしますね。トークやって、LTやって、スタッフやって……。「手伝って!」ってお願いしたんです。

アナグラ そういえば現場のスタッフもやっていた気がします。

codehex なんだかすごかったね。

YAPC::Tokyo 2019で登壇した際のアナグラさん
YAPC::Tokyo 2019で登壇した際のアナグラさん

anatofuz.hatenablog.com

講演内容がわからなくても、懇親会で知り合えれば面白い

――学生で技術カンファレンスへの参加に迷っている人がいたら、どんなふうに声を掛けますか?

codehex 今はいろいろなプラットフォームやSaaSが出ていて、QiitaもZennもあって情報量も増えていますし、1人で簡単にアプリを作っている人って増えている気がしています。逆求人のイベントに行ったことがあるんですが、そこで学生の方と話をしたら「自分でアプリ作って運用しています」というような人たちばっかりで。「どうか来てください」という声掛けになりそうです。

アナグラ 僕は学生の時、「そんなに強くない」という自負が強かったので、「娑婆のエンジニアがどうなってるか」を知りたかった。あと、同世代の友達ができたのがよかったんですよね。沖縄の同じ情報系の大学にいても同じ目線の人ってそんなにいなかったので、あの場にいる人はいるだけで「気持ちがある」人が多いと思います。そこがよかったと思っています。普通に友達作り、知り合いを増やすために来てもらいたい気がしますね。

codehex マジで知り合い作りが一番良いですね。

アナグラ YAPCのようなイベントに行かない限り、Twitterでしか知らない人とか多いですからね。最近はリモートワークが多いから特にそうかもしれません。完全にオフ会のノリで来てもいいかも。YAPC::Kyoto 2023の時は、沖縄から来た後輩が学生支援制度を利用して来た人とごはんを食べに行ったりして盛り上がっていて、よかったと思っています。

codehex アナグラくんは人の縁を広げていくのがとてもうまいんですよね。僕は全然できなかったから、すごいなと思いながら見てました。

アナグラ 僕は最近リモートになってしまってからそれができなくてつまらないですね。自分がコミュニティに行けなくなっているから、今まで好きだったことができないのはもどかしいです。

――YAPC::Hiroshima 2024では絶対懇親会をやるので、楽しみにしていてください。

アナグラ 懇親会が本番ですからね。YAPCの登壇内容は、ぶっちゃけ開発知識がない人だったらわからないかもしれない。その後を楽しみにして来る方がいいと思うんです。新しく来る方がいるとすると、そこを一番伝えたいです。

codehex YAPC::Kyotoには、「全然わからない」っていう人と一緒に行ったんです。今の会社の同僚と参加して、その同僚の友達も本当にプログラミング初心者で、どこを目指せばいいのかわからないと言っていて。そこにrebuid.fmの@miyagawaさんが来ていて、会えて感動して泣き出すということがあって、「すごい、なんかいいな」と思いながら見ていました。

codehex.hateblo.jp

――YAPCに来て、PerlにしろPerlではないにしろ、話している内容がわからなくても楽しめると思いますか?

アナグラ それを「面白い」って言ったら完全にうそだと思っています。懇親会に行って、他の人としゃべって、知り合いが増えると、たぶん面白いと思いますよ。

codehex YAPC::Kyotoに一緒に行ったプログラミング初心者の人が「プログラミングですごいと思っていたのは会社の上司しかいなかったけれど、ここに来たらみんなすごすぎて、こういう世界があるんだ……」って言ってました。振り返ってみると、何もわからなかった時って、何がすごいかもわからないけど「すごい」だけはわかるんですよね。周囲の人にも「それってどうやってわかるようになるんですか?」というような雑な質問しかできないかもしれないですが、そういう適当な会話から交流が生まれる良い機会じゃないでしょうか。

――お話を聞けて、運営をやってきてよかったと思いました。ありがとうございました。

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